成人脊柱変形
adult-deformity
「前を向いて歩きたい」成人脊柱変形の手術治療
腰が曲がる・背中が丸くなる…あきらめないでください。
"年だから仕方ない"ではありません。成人脊柱変形(腰曲がり・背中の丸み)は、骨切り術やXLIF/OLIFなどの専門手術で矯正できます。O-armナビゲーションと術中モニタリングで安全性を確保します。背骨の専門的な手術で、まっすぐ前を向いて歩けるようになる方がたくさんいます。
こんなお悩みありませんか?
- 腰が曲がってきて、まっすぐ立てない
- 前を向いて歩けず、数メートルで休んでしまう
- お腹が圧迫されて、食事がつらい
- 身長が5cm以上縮んだ気がする
- 腰や背中、足の痛みが続いている
成人脊柱変形とは
成人脊柱変形とは、大人になってから背骨のバランスが崩れ、腰が曲がったり背中が丸くなったりする状態のことです。「腰が曲がってきた」「前を向いて歩けなくなった」とお悩みの方は、この病気の可能性があります。
背骨は積み木のようなものです。年齢とともに積み木の一つ一つ(椎骨や椎間板)が変形して、全体のバランスが崩れてしまう ── それが成人脊柱変形です。一度バランスが崩れると、体はそれを補おうとして無理な姿勢をとり、さらに症状が悪化する悪循環に陥ります。
変性側弯症(へんせいそくわんしょう)
加齢による椎間板や関節の変性で、背骨が横に曲がってしまう状態です。腰痛や足のしびれを伴うことが多く、50歳以降に多くみられます。
変性後弯症(へんせいこうわんしょう)
背骨が前方に曲がり、いわゆる「腰曲がり」の状態です。前を向いて歩くのが困難になり、内臓が圧迫されて食欲不振や逆流性食道炎などの症状が出ることもあります。
思春期側弯の残存・進行
若い頃からの側弯症が、加齢とともにさらに進行する場合があります。成長期に治療しなかった側弯や、手術後に隣接する部分が変形してくるケースもあります。
脆弱性圧迫骨折による後側弯
骨粗鬆症により弱くなった背骨が圧迫骨折を起こし、つぶれた椎体が楔形(くさびがた)に変形することで背骨が後方に曲がってしまう状態です。「いつの間にか骨折」とも呼ばれ、一つの骨折がきっかけで連鎖的に骨折が起こり(ドミノ骨折)、腰曲がりが急速に進行することがあります。特に閉経後の女性に多くみられます。
なぜ背骨の「バランス」が大切なのか
背骨の治療で最も大切なのは、単に「曲がりを直す」ことではなく、体全体のバランスを整えることです。医学的には「脊柱アライメント(配列)」と呼びます。
左:正常なバランスでは耳と骨盤が一直線。右:バランスが崩れると体が前方に傾き、立っているだけで疲れてしまいます。
SVA(矢状面バランス)とは
SVA(Sagittal Vertical Axis)とは、横から見たときの耳の位置と骨盤の位置のズレを測る指標です。正常では耳と骨盤がほぼ一直線上にありますが、成人脊柱変形ではこのズレが大きくなります。耳の位置が骨盤より前に出てしまうと、体は常に前に倒れようとします。それを支えるために背中や腰の筋肉が休みなく働き続けるため、強い痛みや疲労が生じるのです。
腰のカーブ(腰椎前弯)が重要
背骨は自然なS字カーブを持っています。特に腰の部分のカーブ(前弯)が不足すると、体全体が前に傾いてしまいます。医学的には「PI-LLミスマッチ」と呼ばれ、手術で矯正する際の重要な指標となります。腰のカーブが足りないと、体が前に倒れてしまいます。これは、骨盤の形(生まれつきの個人差があります)に合った腰のカーブが保たれていないと起きる現象で、手術では、この骨盤の形に合った適切な腰のカーブを取り戻すことを目指します。
最新の研究では、矯正の目標値は年齢によって異なることがわかっています。若い方と同じ角度を目指すのではなく、年齢に応じた無理のないバランスを目標にすることで、より良い結果が得られます。当院では国際的な基準(ISSG年齢別調整目標値)に基づいて治療計画を立てています。
手術の種類
成人脊柱変形の手術にはいくつかの方法があり、変形の種類や程度、患者さまの状態に合わせて最適な方法を組み合わせます。
骨切り術(SPO / PSO / VCR)
変形した背骨の骨を切り、正しい角度に矯正する手術です。矯正力の強さによって3つの方法があります。わかりやすくたとえると、SPOは背骨を少しずつ曲げ直す方法、PSOは折り紙を折り直すようにしっかり角度を変える方法です。VCRは変形した椎体をまるごと取り除いて新しい支えに置き換えるため、最も強い矯正ができますが、最も高度な技術が必要になります。
3種類の骨切り術の比較。変形の程度に応じて、最適な方法を選択します。
| 術式 | 矯正角度 | 特徴 | 適応 |
|---|---|---|---|
| SPO | 約10度/箇所 | 複数箇所で緩やかに | 軽度〜中等度 |
| PSO | 約30度 | 1箇所で大きく | 中等度〜高度 |
| VCR | 約40-60度 | 最も強力な矯正 | 高度・複雑な変形 |
側方アプローチ手術(XLIF / OLIF)── 低侵襲手術
従来の「背中から切開する」手術とは異なり、体の横から小さな切開でアプローチする方法です。背中の筋肉をほとんど傷めないため、体への負担が少なく、回復も早い低侵襲手術です。
体の横からアプローチすることで、背中の筋肉をほとんど傷つけずに手術できます。OLIFは血管と腸腰筋の間から、XLIFは腸腰筋を通ってアプローチします。
- 背中の筋肉を傷めない ── 術後の腰痛が少ない
- 出血量が少ない ── 体への負担を軽減
- 大きなケージを挿入できる ── しっかりした前方支持が得られる
段階的手術(二期的手術)
成人脊柱変形の手術は大きな手術になることが多いため、体への負担を減らすために2回に分けて行うことがあります。
Stage 1:側方アプローチ(XLIF / OLIF)
まず横からアプローチして、椎間板を大きなケージに置き換えます。これにより前方の支持性を確保し、ある程度の矯正を行います。
Stage 2:後方矯正固定(スクリュー&ロッド)
数日〜1週間後に背中からアプローチし、スクリューとロッドで最終的な矯正と固定を行います。必要に応じて骨切り術もこの段階で行います。
1回の手術で全てを行うと、手術時間が非常に長くなり、出血量も増えます。特にご高齢の方では、手術を分けることで体への負担を軽減し、安全性を高めることができます。それぞれの手術の間にしっかり回復していただくことで、全体としてより安全な治療が可能になります。
ロング固定と術後の生活制限について
成人脊柱変形の手術では、変形を矯正し安定したバランスを維持するために、胸椎から骨盤まで広い範囲をスクリューとロッドで固定する「ロング固定」が必要になります。腰椎を含めた広範囲の固定となるため、術後の生活にいくつかの制限が生じることをあらかじめご理解ください。
固定された範囲の背骨は動かなくなるため、前かがみの動作や体をひねる動作が制限されます。靴紐を結ぶ、床のものを拾うなどの動作は、膝を曲げて対応する工夫が必要になります。多くの方は日常動作の工夫により、手術前よりもはるかに快適な生活を送れるようになります。
- 靴 ── 靴べらやスリッポンタイプの活用
- 入浴 ── シャワーチェアや長柄ブラシの活用
- 家事 ── 高さの合った台所用品、ロボット掃除機の活用
- 車の運転 ── 医師の許可後、ミラー調整で対応可能
ロング固定により腰の動きは制限されますが、手術の目的は「痛みなく前を向いて歩けるようになること」です。腰が曲がって数メートルしか歩けなかった方が、手術後にはまっすぐ立って自由に外出できるようになる ── この大きな改善が、動きの制限を十分に上回ると感じていただけるケースがほとんどです。
安全のための技術
成人脊柱変形の手術は高度な技術を要する大きな手術です。当院では、最新の技術を駆使して安全性を最大限に高めています。
O-armナビゲーションシステム
手術中にCTのような3D画像をリアルタイムで撮影し、スクリューを正確な位置に挿入するためのナビゲーションシステムです。成人脊柱変形では多数のスクリューを使用するため、一本一本の正確性が極めて重要です。
術中脊髄モニタリング(SSEP + TcMEP)
手術中に神経の働きをリアルタイムで監視するシステムです。SSEP(感覚)とTcMEP(運動)の2種類のモニタリングを同時に行い、神経障害を早期に検知して防ぎます。特に骨切り術では、矯正のたびにモニタリングで安全を確認しながら慎重に操作を進めます。
段階的手術(二期的アプローチ)
手術を2回に分けることで、1回あたりの手術時間と出血量を抑え、体への負担を軽減します。特にご高齢の方や全身状態に配慮が必要な方に有効な戦略です。
合併症とその予防
成人脊柱変形の手術は大きな手術であり、合併症のリスクがあることを正直にお伝えします。リスクを隠すのではなく、正直にお伝えし、それに対してどのような対策をとっているかをご説明することが、信頼関係の基本だと考えています。ご不安な点は、どんなことでもお聞きください。
PJK / PJF(近位隣接椎障害)
固定した範囲のすぐ上の背骨が新たに曲がったり折れたりする合併症です。特にご高齢の方や骨粗鬆症のある方に起こりやすいとされています。
予防策:骨セメント補強、フック固定の併用、コンポジットロッドの使用、適切な矯正角度の設定(過矯正を避ける)
ロッド折損(インプラントの破損)
矯正に使用する金属のロッド(棒)が、繰り返しの負荷により折れてしまうことがあります。特にPSO(骨切り術)を行った部位で起こりやすいとされています。
予防策:補助ロッドの追加(ダブルロッド、サテライトロッド)、前方支柱(ケージ)による支持力の強化、十分な骨癒合の促進
感染
手術部位の感染は、長時間の手術やインプラントを使用する手術で注意が必要な合併症です。
予防策:厳格な無菌操作、適切な抗菌薬投与、手術時間の短縮(段階的手術)、栄養状態の改善
神経障害
骨切り術やスクリュー挿入の際に、神経を傷つけるリスクがあります。
予防策:O-armナビゲーションによるスクリューの正確な設置、術中脊髄モニタリング(SSEP + TcMEP)による常時監視。リスクがあるからこそ、当院では最新の技術と万全の体制で手術に臨んでいます。手術前には、考えられるリスクと対策について十分にご説明し、ご納得いただいたうえで治療を進めます。
手術後の回復
成人脊柱変形の手術後は、段階的にリハビリテーションを進めていきます。焦らず、一歩一歩回復を目指しましょう。
入院期間:約3〜4週間
手術後は翌日〜数日で離床を開始します。理学療法士と一緒にリハビリテーションを行い、歩行や日常動作の練習を進めます。段階的手術の場合は、それぞれの手術で2〜3週間ずつの入院となります。
退院後〜3ヶ月:日常生活への復帰
日常生活に少しずつ復帰していきます。家事や買い物など、軽い活動から始めます。コルセットの装着が必要な場合があります。
3〜6ヶ月:活動範囲の拡大
骨の癒合が進む大切な時期です。重いものを持つことや激しい運動は控えていただきます。定期的に外来で経過を確認します。
6〜12ヶ月:社会活動への完全復帰
骨の癒合がほぼ完成し、活動制限が緩和されていきます。多くの方がこの頃には手術前よりも快適に過ごせるようになります。
手術で期待できる改善
- 前を向いて歩ける ── 視界が開け、歩行が楽になります
- おなかの圧迫がなくなる ── 食事が楽しめるようになります
- 身長が戻る ── 数cm〜10cm以上回復することもあります
- 腰痛・背部痛の軽減 ── バランスが整い、筋肉への負担が減ります
- 外出や趣味への復帰 ── 生活の質が大きく向上します
ロング固定により腰椎の動きが制限されるため、前かがみや体をひねる動作が難しくなります。ただし、多くの方は日常動作の工夫により手術前よりもはるかに快適に過ごされています。術前に理学療法士から術後の動作指導を行い、退院後の生活に備えていただきます。
年齢や変形の程度、全身状態などにより回復のペースは異なります。無理をせず、医師や理学療法士の指導に沿って、ご自身のペースで回復を進めていただくことが大切です。
よくあるご質問
年齢だけで手術の可否は決まりません。80歳代で手術を受けられる方もいらっしゃいます。全身の健康状態(心臓・肺・腎臓の機能など)、骨の強さ(骨粗鬆症の程度)、そして日常生活への支障の大きさなどを総合的に判断いたします。まずはご相談ください。
変形の程度や年齢によって目標は異なります。大切なのは「完全にまっすぐにすること」ではなく、年齢に合った適切なバランスを取り戻すことです。過度な矯正はかえって合併症のリスクを高めるため、無理なく前を向いて歩けるバランスを目指します。
成人脊柱変形の手術は脊椎手術の中でも大きな手術です。感染、出血、神経障害、インプラントの問題(スクリューの緩み、ロッド折損など)のリスクがあります。当院ではO-armナビゲーション、術中モニタリング、段階的手術などの対策でリスクを最小限に抑えています。手術前に十分にご説明いたします。
手術の内容により異なりますが、おおむね3〜4週間の入院が必要です。段階的手術(二期的手術)の場合は、それぞれの手術で2〜3週間ずつの入院となることがあります。退院後は外来でのフォローアップを継続します。
加齢による椎間板の変性や骨粗鬆症が原因の一つではありますが、「年だから仕方ない」というわけではありません。適切な診断と治療により改善できる場合が多くあります。腰が曲がってきたことでお困りの方は、まず専門医にご相談されることをお勧めします。
成人脊柱変形は一般的に少しずつ進行します。腰痛や歩行困難が悪化し、前かがみの姿勢により内臓(胃や腸)が圧迫されて、食欲不振や消化不良などの症状が出ることもあります。ただし、すべての方に手術が必要なわけではなく、リハビリテーションや装具療法で対応できる場合もあります。
成人脊柱変形の手術には健康保険が適用されます。高額療養費制度を利用すれば、自己負担額には所得に応じた上限があります。具体的な費用は手術内容や入院期間により異なりますので、詳しくは当院の医事課までお気軽にお問い合わせください。
もちろんお受けいただけます。当院ではセカンドオピニオン外来を設けております。他の医療機関で診断を受けた方も、お気軽にご相談ください。紹介状(診療情報提供書)と画像データ(CDやDVD)をお持ちいただけるとスムーズです。
骨粗鬆症がある場合でも手術は可能です。ただし、スクリューの固定力を高めるために骨セメントを併用したり、術前から骨粗鬆症の治療を強化したりするなどの対策が必要です。骨の状態を十分に評価したうえで、最適な手術計画を立てます。
骨の癒合が十分に得られた後(通常6ヶ月〜1年後)には、ウォーキングやゴルフなどの軽いスポーツは可能になることが多いです。ただし、背骨に大きな衝撃がかかるスポーツ(ランニング、スキーなど)については、個別にご相談ください。
成人脊柱変形の手術では、胸椎から骨盤まで広い範囲を固定するため、確かに腰の曲げ伸ばしは制限されます。しかし、股関節や膝を使った動作の工夫で、食事・入浴・着替え・家事など日常生活のほとんどは可能です。手術前には「前に倒れそうで歩けなかった」方が、術後は「腰は曲げにくいが、まっすぐ立って自由に歩ける」ようになります。多くの患者さまが「動きの制限よりも、得られた改善のほうがはるかに大きい」とおっしゃいます。
まずはご相談ください
「腰が曲がってきた」「前を向いて歩けない」とお悩みの方、まずは脊椎専門医にご相談ください。セカンドオピニオンも歓迎いたします。当院は全78床が脊椎専門、外来医師全員が脊椎専門医です。
お電話でのご相談
03-5856-7536受付時間:月〜土 8:30〜17:00(祝日を除く)
安心して手術を受けていただくために、当院の手術の流れや設備についてご紹介します
参考文献・エビデンス
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- Schwab F, et al. "Adult Spinal Deformity-Postoperative Standing Imbalance: How Much Can You Tolerate?" Spine. 2010;35(25):2224-2231.
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- Hosogane N, et al. "Proximal Junctional Kyphosis After Adult Spinal Deformity Surgery: A Systematic Review." Global Spine J. 2022;12(5):1060-1071.
