当院の手術

主な手術

神経除圧術

神経除圧術は、症状の原因となっている脊髄、馬尾神経、神経根などの圧迫を取り除く手術です。全身麻酔を行った状態で、原因となっている骨や靭帯を身体に負担の少ない方法で取り除きます。また、神経除圧術の中でも、下記3つの手術方法がございます。
※いずれも術後3-7日程度の入院治療です。

椎弓部分切除

圧迫された神経を必要最小限に除圧する方法です。

椎弓形成術

神経の除圧に加え、背骨(頚椎・腰椎)の強度の維持や、本来の頚椎の弯曲を維持する方法です。

FED(全内視鏡下ヘルニア摘出術)・MED(内視鏡下ヘルニア摘出術)

内視鏡を使った手術です。再発率を考慮し、適応を選んで行われます。

FEL(全内視鏡下椎弓切除術)・MEL(内視鏡下椎弓切除術)

内視鏡を使った手術で、適応を選んで行われます。早期退院が可能です。

FECF(全内視鏡下頚椎椎間孔拡大術)

内視鏡を使った手術で、適応を選んで行われます。早期退院が可能です。

インストゥルメンテーション手術

脊椎は神経の通り道であるとともに、人が身体を動かす際にはその中心を担う運動器でもあります。
脊椎後弯変形、変性側弯、すべり症、不安定脊椎症などの場合には、除圧術だけでは運動器機能回復としては不十分なケースがあります。
その際には、より良好な術後結果を得るために、インストゥルメンテーションという、不安定な背骨に対して金具を使用する、固定術を選択しています。
当院では十分な術前計測とともに、術中ナビゲーションシステム、レントゲン透視、神経モニタリングを使用することで、より安全で確実性の高い手術を行います。
※術後7-10日程度の入院治療です。

XLIF

平成25年日本国内に導入された新しい低侵襲の腰椎固定術です。椎体の前方に直接後腹膜を経由してアプローチすることで、出血量を少なく、今までより安定した脊椎の固定と矯正が行えます。

OLIF

OLIFは、Oblique Lateral Interbody Fusionの略で、腰椎の変性疾患に対して、斜め前方から大腰筋前縁を経由して椎間板へアプローチを行う手術手技です。OLIFは、従来のアプローチに付随して起こりうる神経損傷の危険性を回避しつつ、椎体前方に大きなサイズのケージを設置することが可能です。

PLIF

脊椎の安定性を獲得するために、該当椎間板腔に背骨の両側からインストゥルメントを挿入、設置する方法です。不安定性脊椎症、すべり症、変性側弯症などで行われる方法です。

TLIF

該当椎間板に片側からケージを挿入して椎体の安定性を獲得する方法です。PLIF対象の方よりも変形、不安定性が軽度な場合に行う、より侵襲の少ない手術方法です。

ACDF(頚椎前方除圧固定術)

首のヘルニアや後縦靭帯骨化症に対して、首の前方からアプローチして、直接脊髄、神経根の圧迫を取り除き、また頚椎の姿勢を保つ手術方法です。障害部位の動きを止めることで神経症状の改善が見込まれます。従来日本で行われている安全性の高い手術です。

CPLF(頚椎後方固定術)

頚椎を後方からスクリューなどを使用して固定し、神経の圧迫を取り除き、頚椎のバランス異常を矯正する手術方法で、首下がりや不安定性を伴う椎間板ヘルニア、靭帯骨化症、外傷、骨折などが対象になります。

TDR(人工椎間板置換術)

現在日本国内で保険診療として認められているものは頚椎になります。ヘルニア等による神経根障 害や頚椎症性脊髄症が対象で、骨質が良好で、 椎間板を摘出した後に可動性のあるインプラント を用いて固定する手術です。脊椎のバランスが比 較的保たれている場合に対象になります。術後の 隣接椎間障害を予防する事が期待されています。 日本で2017年に承認、臨床使用が開始され、 当院では2022年1月から導入しています。

脊椎制動術

不安定性のある脊椎に対し、上下に可動性のあるインプラントを用いて固定する手術です。可動性を持たせることで上下の椎間板への負担を軽減させることができます。腰椎はあるが、肉体労働などで今後も前屈み動作や重量物の扱いが必要など、固定術が出来ない方によく行われる手術です。
※術後7-10日程度の入院治療です。

経皮的椎体形成術(BKP)

Balloon kyphoplasty(BKP)は脊椎圧迫骨折が対象です。偽関節となって骨折部分が安定せず、背中や腰の痛み、違和感、疲れやすさなどが慢性化しているような骨折の場合にも行います。
潰れた椎体を可及的元の形に戻し、また痛みを取り除きます。骨折のタイプによって手術の適応外の場合があります。
※日帰り~2泊3日で退院可能な方法です。

MISt(脊椎最小侵襲安定術)について

近年脊椎手術は今までに比べて身体に負担の少ない方法が選択されることが増えてきています。低侵襲手術は、傷口を小さくすることだけではなく、より正確・安全に行う事が必要です。
低侵襲手術の利点として、

  • 身体の負担が少ない
  • 術後の炎症が軽度になり、旧来法と比較して術後の痛みが軽い
  • 入院日数の短縮
  • より早い社会復帰

などが挙げられます。
脊柱管狭窄症、変性側弯症に対する手術を、MISt(脊椎最小侵襲安定術)と呼ばれる方法で行います。脊椎に使うスクリューは、組織のダメージを減らすために、筋肉を骨からあまり剥がさず、ピンポイントにスクリューを入れる方法(PPS:経皮的椎弓根スクリュー法)を用います。椎間板に補強材(ケージ)を設置する際には、腰の横あたりを切開して筋肉を分け、そこから円筒状の筒を通して椎間板に到達させます。これにより脊柱管を傷つけずに設置が可能となります。 代表的な方法として、XLIF(側方アプローチ椎体間固定術)と呼ばれる方法がありますが、これは今までの後方アプローチによる手術と比較して、出血量を低下させると同時に、脊椎変形の矯正を容易にしました。
これらの手術の際には、O-アーム、3Dナビゲーション、Nuvasive社製筋電図モニターと言われる医療機器を使用します。従来レントゲン透視を使用していましたが、3Dナビゲーションでは、より鮮明で確実な画像を術中に確認できます。また、筋電図モニターはインプラントが神経を傷つけていない事を判定します。当院ではこれらの医療機器を使い、難度の高い手術をより安全に、より身体に優しい方法で提供します。

内視鏡手術とは

内視鏡を使った手術

内視鏡手術は小さなカメラを身体の中に入れ、映像をモニターに表示して行う手術です。通常の手術は切開したところから身体の内部を直接目で見て、または顕微鏡で見て行います。通常の手術では、特に深い場所や手の届きにくい場所の手術では皮膚を大きく切ることになります。一方で内視鏡手術ではカメラや手術器具が入る大きさの皮膚を切るだけで手術を行うことができます。皮膚を切る大きさが小さいだけでなく筋肉などを傷める範囲も狭いため、手術後の痛みが少なく入院期間も短くてすみます。

脊椎の内視鏡手術

脊椎の手術の目的は主に2つです。一つは神経の圧迫をとること、もう一つは背骨の形態を治すことです。脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアは神経が圧迫されることで痛みやしびれの症状が出る病気です。これらに対する手術では神経を圧迫している骨や黄色靭帯、椎間板ヘルニアなどを取り除きます。神経を圧迫している範囲の大きさは、例えば1か所の腰部脊柱管狭窄症であれば直径2㎝程度です。究極の理想は症状の原因となっている部分だけを取り除くことですが、実際には病気の部分に到達するために皮膚や筋肉などを切る必要があります。皮膚や筋肉を切る範囲をできるだけ小さくするための方法の一つが内視鏡手術です。

脊椎の内視鏡手術の方法にいくつかあります。代表的なものは①直径16mmの筒(円筒型リトラクター)を使用する手術、②直径8-10mm程度の長い内視鏡を使用する手術(FESS)、③カメラと手術器具を別々の皮膚切開から入れる手術(UBEまたはBESS)、の3つです。いずれもカメラや器具が入る大きさだけ皮膚を切り、様々な道具を駆使して病気を取り除きます。筋肉や皮下脂肪が厚い方でも骨や病気の部分まですぐに到達することができます。傷の大きさは①の方法では2㎝程度、②の方法では1cm程度、③は1cm程度が2か所です。傷の大きさ以外にも3つの方法には大きな違いがあります。

3つの脊椎内視鏡手術

  1. 円筒型リトラクターを使用する手術
    英語ではmicroendoscopic surgeryといい、以前は単に脊椎の内視鏡手術といえばこの手術のことを指していました。この手術の代表は椎間板ヘルニアに対するMED、腰部脊柱管狭窄症に対するMELです。

    皮膚を2㎝程度切り、ここから内径16mm、有効長6-10cmの金属製の筒(円筒型リトラクター)を骨のすぐ近くまで入れ、筒に細いカメラを装着します。筒をフレキシブルアームで手術台に固定し、左右の手にそれぞれ別々の手術器具を持って手術を行います。この手術は従来の手術を内視鏡の映像をモニターで見ながら円筒型リトラクターの中で行うようなイメージです。

    3つの脊椎内視鏡手術

    円筒型リトラクターの中という狭い空間のため手術操作の自由度が低く、従来の手術よりも少し長い手術器具が必要になります。自由度が低いため手術は難しくなりますが、手術器具自体は従来の手術とほぼ同等のものを使用でき、しかも両手で作業できるというメリットがあります。

  2. 全内視鏡下手術(FESS)
    以前は経皮的内視鏡と呼ばれ、腰の椎間板ヘルニアに対する手術はPED(経皮的内視鏡下椎間板摘出術)またはPELD(経皮的内視鏡下腰椎椎間板摘出術)と言われていました。最近では総称して全内視鏡下脊椎手術(FESS)と呼ばれ、代表的なものは椎間板ヘルニアに対するFED(全内視鏡下椎間板摘出術)です。その他に腰部脊柱管狭窄症に対するFEL(全内視鏡下椎弓切除術)、頚椎症性神経根症に対するFECF(全内視鏡下頚椎椎間孔拡大術)などがあり、頭文字がFで始まる手術はここに属します。

    この手術では皮膚を1cm程度切り、そこから直径8mm、有効長14-18cmの細い内視鏡(スコープ)を挿入します。このスコープの先端にはカメラがついており、手術器具を出し入れする通路と水を流す通路が作られています。左手にスコープを持ち、スコープ内を専用の細い手術器具を通して病気の部分の切除を行います。常に手術する部分に水を流しながら(潅流しながら)行う手術で、血液を洗い流しながら行うため綺麗な視野で手術を行うことができます。

    3つの脊椎内視鏡手術

    ここに挙げる3種類の内視鏡手術の中では最も傷が小さく筋肉の損傷も少ない手術です。また細く長い内視鏡を使いうため、身体の横の方から骨の裏側にアプローチすることができます。

    椎間孔部の椎間板ヘルニア
    椎間孔部の椎間板ヘルニア

    通常の手術は脊椎の真後ろからアプローチします。骨(椎間関節)の裏側にある病気に到達するためには骨を壊す必要がありました。FESSでは横の方から内視鏡を入れることができるため、骨を全く壊さずに病気の部分に到達することができます。骨を大きく壊した場合には骨同士をスクリューで固定する手術(固定術)が必要となりますが、FESS手術ならば固定せずに治せる可能性があります。

    欠点もあります。①よりもさらに細い専用の手術器具を使い、また手術器具を使えるのが片手のみであるため、病気の部分を取り除く操作には限界があります。硬膜という膜を損傷しても縫うことはできません。また、水を流しながら手術を行うため通常はきれいな視野で手術を行うことができますが、いったん強く出血すると視野が非常に悪くなります。血を止めるための様々な工夫はあるのですが、血を止めるのも苦手です。

  3. UBEまたはBESS
    3つの方法の中では最も新しく、日本では2023年から普及し始めた方法です。②の方法と同様に水を流しながら手術を行います。上記2つの手術と異なり皮膚を2か所切開します。1か所はカメラを入れる傷、もう1か所は手術器具を入れる傷です。上記2つの手術では狭い筒の中に手術器具を通すため専用の手術器具が必要でした。しかしこの手術では皮膚を切ったところから直接器具を入れるため、従来の手術用の大きな器具を使用することができます。また器具が筒に制限されないため、器具を大きく動かして骨や黄色靭帯、ヘルニアなどを取ることができます。

    この手術では大きな手術器具を使うことができますが、②と同様に手術器具を使えるのが片手のみです。出血を止めることも少し苦手です。また①,②の方法では手術器具を通す経路は筒の中に限られているため筋肉は守られていますが、この手術では筋肉の中を出し入れすることになります。

内視鏡手術の限界

内視鏡手術共通の欠点として、視野が狭いため自分がどこを見ているのかわかりにくいということがあります。大きく切る手術では骨の広い範囲を見ることができるため、骨や黄色靭帯を取り除く範囲を見誤ることはほとんどありません。一方内視鏡手術はカメラが映し出す範囲は狭く、自分がいまどこを見ているのかがわかりにくいです。その結果骨を削る範囲が小さすぎたり、また逆に大きすぎて不要な範囲まで削ってしまったりすることがあります。不十分な手術になれば症状が残ってしまいますし、削り過ぎれば痛みの元となったり骨がずれるようになったりします。特に②、③の手術はカメラが映し出す範囲が狭く、またスコープが固定されていないために空間を見失うリスクが高くなります。

  • 通常の手術の視野
    通常の手術の視野
  • 内視鏡手術の視野
    内視鏡手術の視野

また、内視鏡手術は広い範囲の手術や背骨の形態を治す手術には向いていません。内視鏡でどこまでやるか、できるかは手術を行う医師ぞれぞれの考え方によります。

最後に

脊椎の内視鏡手術を紹介しました。3種類の内視鏡手術はそれぞれ特徴があり、どれかの方法が特に優れているということはなく、どれも長所短所があります。どの内視鏡手術でも、また従来の方法でも、病気の部分を取り除くという目的は同じです。取り除く病気の範囲も基本的には同じで、そのための経路をどれだけ傷つけるかの違いです。

どの手術方法がよいのかは各患者さんによって違います。まず患者さんごとに病気自体が違います。傷の大きさや筋肉の損傷にどこまでこだわるかも人それぞれです。1cmの傷と2㎝の傷の違いを大きいと感じるかどうか。2㎝と5cmならどうでしょうか。手術後の1週間以内の傷の痛みに違いがあったとして、1か月後は同じだったらどうでしょうか。傷が大きくても確実に治る方がよいと考える方もいれば、できるだけ少ない侵襲の治療を希望される方もいます。

また手術を行う医師がどの手術に習熟しているか、どの手術を推しているかにもよっても選択は変わります。

当院では各種の内視鏡手術を行っております。また内視鏡手術以外にも手術用顕微鏡やナビゲーション装置を使った手術も行っております。個々の患者さんに応じて最良の治療を提案させて頂きます。